クリングルファーマ株式会社.

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研究開発

その他

声帯瘢痕

声帯瘢痕とは、声帯の物性が固く変化(線維化、瘢痕化)して動きが悪くなるため、声が出しにくくなる音声障害を生じる疾患です。発症原因は明らかになっていませんが、声帯の外傷や炎症、声帯の手術後などに起こりやすいことが知られております。患者数については、小規模の疫学調査結果から、国内に3,000~12,000人の患者がいると推定されております。これまでのところ、声帯瘢痕に対する有効な治療法なく、音声訓練等のリハビリテーション及び声帯の位置を移動する手術といった対症療法が中心となっております。

声帯瘢痕の説明

HGFによる線維化抑制メカニズム

HGFによる線維化抑制メカニズム

HGFの生物活性として線維化を抑制する抗線維化作用があるため、声帯瘢痕の治療にも活用できる可能性が考えられます。当社では、京都大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科及び公益財団法人先端医療振興財団との共同研究により、声帯瘢痕モデル動物の声帯内に組換えヒトHGFタンパク質を投与したところ、声帯機能の改善を認めました。そこで、医薬品の開発に必要な非臨床試験(声帯内投与における試験)を追加で実施し、臨床試験に開発ステージを進めました。声帯瘢痕患者を対象とした第Ⅰ/Ⅱ相試験結果の概要を下表に示します。

声帯瘢痕患者を対象とした第Ⅰ/Ⅱ相試験結果の概要
デザイン

オープンラベル、用量漸増試験(医師主導)

患者母集団

20歳以上65歳以下の声帯瘢痕患者

用法用量

1、3、10µg/片側声帯/回(各群6例)
1回/週、計4回、両側声帯粘膜内局所投与

主要評価項目
  • 評価基準

    安全性の確認

  • 結果

    声帯の充血が認められたが、軽度で回復しており、安全性上大きな問題は生じないと考えられた。

副次評価項目
  • 評価基準

    有効性評価指標及び評価時期の探索

  • 結果

    有効性指標として測定した5種類の評価項目のうち、3種類の評価項目について改善の傾向がみられた。

当該試験の主要評価項目である安全性の確認について、重篤な副作用は認められず、忍容性は良好であることが示されました。また、副次評価項目において、改善傾向の見られる評価項目、評価時期についての知見が得られました。本試験の結果は、国際医学雑誌Journal of Tissue Engineering and Regenerative Medicineに論文発表されております(Hirano et al, 2018.)。 これらの結果を基に、次相試験の計画を策定しております。具体的には京都府立医科大学との協議の上、POCの取得を目的とするプラセボ対照二重盲検比較試験を想定し、複数の治験実施施設の選定、主要評価項目及び副次評価項目の設定を行い治験実施計画書骨子を作成しております。この計画書骨子を基に、PMDAと事前面談を実施し、次相試験の協議を始めております。 声帯瘢痕においてHGFのPOCが確認された場合には、HGFの「抗線維化」採用に基づく創薬コンセプトそのものが示されることになり、声帯瘢痕のみならず他の線維化が原因となる慢性疾患(慢性腎不全、肝硬変、肺線維症など)への適応拡大の可能性が示されると考えております。

参考文献

Mizuta M, Hirano S, Ohno S, Kanemaru S, Nakamura T, Ito J. Restoration of scarred vocal folds using 5 amino acid-deleted type hepatocyte growth factor. Laryngoscope. 2014; 124: E81-86.

Hirano S, Kawamoto A, Tateya I, Mizuta M, Kishimoto Y, Hiwatashi N, Kawai Y, Tsuji T, Suzuki R, Kaneko M, Naito Y, Kagimura T, Nakamura T, Kanemaru SI. A phase I/II exploratory clinical trial for intracordal injection of recombinant hepatocyte growth factor for vocal fold scar and sulcus. J Tissue Eng Regen Med. 2018 12:1031-1038.

急性腎不全

急性腎障害とは、腎臓の損傷、腎臓への血液供給不足、尿路の閉塞等により、数時間~数日という短い期間に急激に腎機能が低下する状態で、その結果、尿を介した老廃物の排泄ができなくなり、体内の水分や塩分量などを調節することができなくなる疾患です。入院患者の5~7%、集中治療室患者の20~25%で発症すると言われており、国内では年間約8万人が発症しております。重篤な場合には救急医療が必要になり、死亡に至る場合も多い疾患です。発症要因が多数あるため、原因を特定できない場合が多く、有効な治療法は確立されていません。

HGFによる線維化抑制メカニズム

急性腎障害の発症とHGFの作用機序

HGFは腎臓の細胞に対して保護効果や増殖作用を示すことから、急性腎障害の治療薬となる可能性が考えられます。当社は、米国の腎臓専門クリニック(Rogosin Institute)の協力を得て米国において臨床試験を行いました。ただし、第Ⅰ相試験においては、組換えヒトHGFタンパク質の安全性を確認することが目的であるため、容態の不安定な急性腎障害患者を対象とすることは不適切であると判断し、比較的容態が安定している慢性腎不全患者を対象として試験を実施いたしました。当該試験は、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:以下「FDA」という。)により、必要性の高い新薬の審査を優先的に行う制度であるFast Trackの認定を受けて実施しております。試験結果の概要を下表に示します。

慢性腎不全患者を対象とした第Ⅰ相試験結果の概要
デザイン

第Ⅰa相:オープンラベル、用量漸増試験(全9例)
第Ⅰb相:プラセボ対照二重盲検試験(全15例)

患者母集団

18歳以上85歳以下の慢性腎不全患者

用法用量

第Ia相:3用量、静脈内単回投与
第Ib相:2用量、1回/日、5回、静脈内反復投与

主要評価項目
  • 評価基準

    安全性及び忍容性

  • 結果

    重篤な副作用はなかった

副次評価項目
  • 評価基準

    薬物動態の解析

  • 結果

    単回投与で投与後速やかに消失し、反復投与で蓄積性はみられなかった

当該試験において得られた情報を基に、次相試験として急性腎障害患者を対象とした臨床試験の計画を策定しております。また、国内での臨床試験実施を想定した第I相試験の追加試験(日本人での最大耐用量を確認する小規模試験)についても同時に策定しております。具体的には、急性腎障害患者を対象とした治験実施計画書の作成のため、医学専門家へのヒアリング、他社治験例の検討、バイオマーカー調査等の検討を継続しております。しかしながら、次相試験は比較的大規模なプラセボ対照二重盲検比較試験になることが想定されており、現状では当社単独で神経系の治験と並行しての開発継続は難しいと判断し、製薬企業等と提携し、開発資金を確保した上で開発を進める方針としております。  なお、静脈内投与は最も全身性に被験薬が到達するため、安全性の問題も発生しやすい投与経路になります。当該試験において安全性が確認されたことで、他の投与経路の開発を進める上で重要な知見が得られたと考えております。静脈内投与は様々な疾患に適応拡大しやすい投与経路であることから、急性腎障害に限らず、安全性及び有効性が効果的に確認できる疾患を策定しながら開発を進める方針です。

参考文献

Matsumoto K, Nakamura T. Hepatocyte growth factor: renotropic role and potential therapeutics for renal diseases. Kidney Int. 2001;59(6):2023-2038

Kawaida K, Matsumoto K, Shimazu H, Nakamura T. Hepatocyte growth factor revents acute renal failure and accelerates renal regeneration in mice. Proc Natl Acad Sci USA. 1994;91:4357-4361.

基礎研究

当社は、国内外の大学や企業との共同研究において基礎研究を行い、新規パイプラインの強化を進めております。当社からは原薬あるいは治験薬の提供を行い、共同研究先にて有望なデータが得られた場合には開発ステージを進める予定です。

領域 開発段階 基礎研究 非臨床試験 臨床試験
眼科疾患 米国クラリス・バイオセラピューティクス社による開発(当社よりHGF原薬供給) 終了 実施中 計画中
神経系疾患 慶應義塾大学と共同研究 実施中
探索ステージ 金沢大学、京都大学と共同研究 実施中