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| 生体のもつ再生・修復能は大きく2つのシステムによって支えられています(図1)。 その一つは、骨髄の造血系で代表されるような自己増殖能と多分化能を備える幹細胞が 一定の増殖後、それぞれの機能細胞に最終分化するシステムです。一方、もう一つは 肝臓、腎臓、肺、消化管、膵臓、皮膚、血管系などを含む多くの組織や臓器でみられるように、 すでに機能的な細胞に分化した細胞(例えば、肝細胞、尿細管上皮細胞、血管内皮細胞など)が、 傷害に応答して速やかに増殖し、傷ついた組織や失われた組織が再生修復するシステムで、 これはsimple duplicationシステムと呼ばれています。 | |
| 再生医学というとただちにES細胞や幹細胞の 生物学と誤解されていますが、成体の多くの組織や臓器の再生・修復はsimple duplicationシステムに 依存しています。したがってsimple duplicationシステムの仕組みを解明することは、 とりわけ多くの臓器疾患の治癒にも直結することが期待されます。 |
![]() 図1:クリックすると拡大
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| 高等動物における再生現象の中でも最もドラマチックなものとして古くから知られていたのが 肝再生です。事実、生体肝移植によって移植された約400 gの肝臓は1ヶ月もすると 約1 kgに再生します。 肝再生を促す液性因子の実体は長い間謎とされていましたが、 その実体は、成熟肝細胞に対する増殖促進因子として中村ら(大阪大学)によって 発見・単離・クローニングされたHGF(hepatocyte growth factor; 肝細胞増殖因子)です。 HGFは分子量85kDaのタンパク質で、標的細胞に発現されているc-Met受容体を介して生物活性を発揮します(図2)。 |
![]() 図2:クリックすると拡大
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| HGFは肝細胞のみならず様々な細胞に対して、細胞増殖促進、細胞運動促進、抗アポトーシス(細胞死)、 形態形成誘導、血管新生など組織・臓器の再生と保護を担う多才な生理活性を有していることが分かりました。 肝臓の再生を例にすると、部分肝切除、肝炎、肝虚血など様々な急性傷害にともない、 傷害を受けた肝臓に加え遠隔の肺や腎臓など無傷の臓器においてもHGFの発現が高まり、 これにより血中HGFレベルが上昇します。 | |
| このように傷害に応じて動員されるHGFが肝臓の保護や再生を 担っています。事実、肝傷害を引き起こしたラットやマウスにHGFの活性を中和する抗体を投与すると、 肝傷害の著しい拡大と肝再生不全におちいります。同様の結果は他の臓器傷害でも認められており、 HGFは肝臓、腎臓、肺、心・血管系、神経系などを含む様々な組織・臓器の再生・保護を担う内因性因子で あることが明らかにされています(図3)。 |
![]() 図3:クリックすると拡大
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HGFは生体のもつ自然治癒力を支える実行分子といえます。しかしながら、 組織・臓器の傷害や細菌・ウイルスの感染が急速かつ広範囲に及ぶことによって、 組織傷害が自然治癒力を上回るレベルに到達すると重篤な急性疾患の発症に至ります。 また、肝硬変や慢性腎不全(腎硬化症)に代表されるような慢性線維性疾患におきましては、 再生因子として機能すべきHGFの発現低下をきたしています。言い換えれば 再生システムの不全(あるいは自然治癒力の低下)が慢性線維性疾患の発症・進展に つながっています。従って、急性、慢性を問わず、HGFを外因的に補充し生体の修復能を 高めることが、様々な疾患の発症阻止あるいは治療につながることが期待されます。 これまでに様々な疾患モデル動物でなされてきたHGF投与の結果は、いずれも、 HGFが著しい発症阻止あるいは治癒作用をもつことを示しています。それらの実験結果に 基づいてHGFの臨床応用が期待される疾患を表にまとめました。 劇症肝炎、心筋梗塞、急性腎不全、脳梗塞などの急性臓器疾患の発症には、 それぞれ肝細胞、心筋細胞、ニューロンなど組織の特異機能を担っている分化細胞の アポトーシスが関与することが明らかにされており、これら難治性急性疾患では細胞死の 急激な増加をいかにくい止めるかが初期治療の決め手となります。 劇症肝炎、心筋梗塞、急性腎不全、腎移植、急性肺傷害、脳梗塞を引き起こした実験動物に 組換えHGFタンパク質を投与すると強力な抗細胞死作用や再生促進作用による発症阻止や 臓器の治癒促進が認められます。一方、とりわけ患者数も多くしかも不治の病として とり残されているのが慢性線維性疾患です。HGFは肝硬変、慢性腎不全、肺線維症、心筋症など 慢性線維性疾患に対し強力な治療効果を示しています。急性臓器疾患や慢性線維性疾患に対する HGFの治癒作用は、高次組織の再生や保護を担うHGFの多才な生理活性によって発揮されるものであり、 組織・臓器が異なってもHGFによる治癒作用のメカニズムは基本的に共通であると考えらます。 |
| 肝疾患 | 急性肝炎、劇症肝炎、肝硬変、胆道閉鎖症、脂肪肝、肝移植 |
| 腎疾患 | 急性腎不全、慢性腎不全、腎移植、糖尿病性腎臓症 |
| 肺疾患 | 急性肺炎、肺線維症、肺移植 |
| 循環器系 | 血管障害(閉塞性動脈硬化症、血管再狭窄防止など)、心筋梗塞、拡張型心筋症 |
| 他の疾患 | 皮膚潰瘍、脳梗塞、筋萎縮性側策硬化症 |